企業法務弁護士
30年近い弁護士経験で幸運だと思うことの一つに、スター弁護士と言われる企業法務弁護士と共に仕事をする機会に多く恵まれてきたことがあります。メディアは企業法務弁護士ランキングを時々公表しており、ランキングされている弁護士に優れた方が多いのは事実ですが、ランキングに現れない弁護士にも多くの尊敬すべきスター弁護士がいます。
私から見て、優秀な企業法務弁護士は次のような特徴を備えているように思います。
①社会常識(経験則)・法令・判例・論理力を総動員して正しい論理を組み立てる高い能力 and/or ②卓越した発想力 and/or ③卓越した実行力
①②③の全てを持っている方は間違いなくスーパースターで、本当に限られたgifted lawyerというべき方々です。現実には上で「and/or」と書いたとおり、スター弁護士といえども①~③の要素を濃淡のある組み合わせで有することがほとんどだと思いますが、その中でも特に②の発想力や③の実行力を強く有する方が多いように思います。ただ、②や③の特性は、努力によって手に入れるというよりも人間自身に備わった属性に近いため、真似しようと思ってもなかなか叶うものではありません。
努力で近づくことができるのは①の要素です。社会常識(経験則)・法令・判例・論理力を総動員して正しい論理を組み立てる能力は、企業法務弁護士の基礎ともいえる能力であり、したがって、①については「and/or」ではなく「and」とした方が正確かもしれません。「正しい論理」の捉え方には弁護士ごとの個性があるものの、スター弁護士といわれる企業法務弁護士は例外なくこの特性を有していると思います。
企業法務弁護士をめざす若手弁護士の皆さんには、①の能力を鍛える訓練をすることを強くお勧めします。②や③はそもそも訓練しようがないところもありますし、若手のうちに発想力や実行力の方向性で突き進むと、運良く展開すればよいですが、あらぬ方向に行ってしまうリスクが大きいように思います。
具体的には、第1段階は、前提となる社会常識(経験則)・法令・判例・論理力に関する知識の吸収です。とにかく勉強と練習ということになりますが、法律関係だけでなく、小説を読んだり、映画を観たり、年上年下、同性異性、同業異業、国内国外を問わず多くの人と交流することも重要です。このため第1段階の際は寝る間もないほど忙しくなりますが、後になればそれも懐かしく思えるはずです。
第2段階は、実践として、いろいろな問題について、短時間で(できるだけ短い時間では重要です)、自身の社会常識(経験則)・法令・判例・論理力を総動員して、その問題の解決策として正しい論理(できれば最善策、次善策、次々善策程度まで)を組み立てる訓練を繰り返すことです。企業法務指向の優秀な若手弁護士は自然にやっている気もしますが、この訓練を意識的かつ反復的に行うと見る見る成長していきます。逆に、この訓練が嫌いな方や得意でない方は弁護士としてのキャリアについてよく考えた方がよいと思います。それはともかく、私個人としては、社会常識(経験則)、法令、判例、論理力の4点セットがとにかく大事ということが強調したいところです。この第2段階は何歳になっても終わらず、終わるのは弁護士をリタイアするときと思います。
当業界にいて、スター弁護士や優れた企業法務弁護士と会ったり、一緒に仕事をすることはとても幸せなことと感じます。一人でも多くの若手弁護士がそうした弁護士になっていくのを見たいですし、そのサポートや手伝いをしたいと思います。昨今は司法試験受験者の減少という悲しいニュースを聞くことも多いですが、やりがいに満ちた仕事だと思いますので、一人でも多くの優秀な方が企業法務弁護士やそのほかの様々な弁護士となることを目指してくれるのを昭和世代弁護士の一人として祈るばかりです。
林 康司