改正民法(2020年4月1日施行)はどこから適用されるか(2)

その他の改正事項についての経過措置

その他の改正項目である、意思能力・行為能力、意思表示、代理、無効・取消などの経過措置についても、当事者が新旧いずれの法の適用を予測しているかという予測可能性が大きな基準であり、具体的には、契約日に代表される行為(意思表示、法律行為)の時点が基準になります。この観点から附則を眺めれば、新旧民法のいずれが適用されるかはそれほど難しくはないと思います。

以下では、幾つか注意点を挙げておきます。

中間利息の控除

例えば交通事故の事案で、被害者が死亡した場合や後遺障害を負った場合、将来の逸失利益(収入の減収分)の請求が可能です。この場合、将来の損害を現時点で賠償請求するにあたっては中間利息が控除されます。これについて新民法は法定利率に基づき計算するとの規定を置きましたが(新民法417条の2)、これ自体は実務を規定化したものであり、特に問題はありません。しかし、いかなる請求から、旧民法の法定利率である年5%から、新民法の法定利率である年3%に切り替わるかは大きな問題です。例えば被害者が平均的な収入のある40代男性の場合、中間利息に年5%でなく年3%が適用されると、賠償額は2,000万円以上高額になる可能性があるからです。

附則は、2020年4月1日より前に生じた損害賠償請求権については旧民法(年5%)が適用され、2020年4月1日以降に生じた損害賠償請求権については新民法(年3%)が適用されるとしています(附則17条2項)。損害賠償請求権の発生時が基準です。そして、被害者が死亡した場合には事故時ないし死亡時が基準となることで争いがありません。

ところが、被害者に後遺障害が残った事案では、事故時ではなく症状が固定した時を基準に逸失利益を算出するのが実務です。このため、2020年4月1日より前に事故が発生し、同日以降に後遺障害の症状が固定した事案において、加害者側が、損害賠償の一般理論に従って事故時を基準に旧民法に基づく中間利息を逸失利益から控除すべきと主張し、被害者側が、実務慣行に従って症状固定時を基準に新民法に基づく中間利息を逸失利益から控除すべきと主張する事態が考えられます。今後裁判で問題となっていくことが予測されます。

債権者代位権

債権者代位権(旧民法423条、新民法423条~423条の7)については、代位の対象である債権(債務者の第三者に対する債権)の発生が2020年4月1日より前か後かが基準となります(附則18条1項)。債務者と第三者の予測可能性を確保するためです。債権者代位権の制度は新民法で大きく改正されましたが、債務者の第三者に対する債権の成立時期で適用法が左右されるので、債権者としては注意が必要です。

詐害行為取消権

詐害行為取消権(旧民法424条、新民法424条~424条の5)については、取消の対象である詐害行為(債権者を害することを知ってした行為)が2020年4月1日より前か後になされたかが基準となります(附則19条)。債権者としては債権者代位権と同様の注意が必要となります。

債権譲渡

債権譲渡については、債権の譲渡の原因である法律行為、つまり、債権譲渡契約の日が基準となります(附則22条)。今回の改正で債権についての譲渡禁止特約の効力については大きく改正されましたが、債権譲渡が2020年4月1日より前か後のいずれになされるかで法的効果が大きく異なりますので、特に債権が2020年4月1日をまたがって二重譲渡された場合などでは注意が必要です。

以上のとおり、新民法がどこから適用されるかについて検討してみました。一般のユーザーの方から見て、新民法の附則はお世辞にも分かりやすいとは言えませんし、パズル的な思考が必要となることもありますので、具体的な事案で悩むところがある場合は弁護士などの専門家に確認をしていただければと思います。

弁護士 林 康司